研究概要
卒業論文以来、泉鏡花をメインテーマにしています。鏡花(1873-1939)は、日清戦争後の1895年、硯友社の新進作家として登場し、約50年の長きにわたって日本文壇の表舞台で活躍しました。近代リアリズムを主流とする文学史においては「異端」と評されますが、夏目漱石・谷崎潤一郎・芥川龍之介・川端康成・三島由紀夫らが「天才」と認めた作家であり、100年ののちに読み継がれ、世界的にも高い評価を得ています。鏡花文学の成立と受容(=どのように創られ、どのように読まれてきたか)を研究することは、日本近代文学のもう一つの側面、幻想ファンタジーの系譜、古典文芸の継承と再生、日本の伝統的な美意識や死生観の反映を、変動する時代状況に位置づけながら、個々の作品の表現機構に即して、ミクロの視点から問い直すことだと考えています。ミクロへの着眼が日本文化や近代科学文明を相対化するマクロの視点に通じると確信しています。
教育・研究活動の紹介
学部生にむけた授業では、「近代小説」の面白さを伝えたい。読むほどに多様な解釈が浮上し、思考の迷宮へと迷い込む愉しさを体感していただきたいと考えています。小中高等学校の教室で文学教材をあつかう際の基本姿勢や技能を学ぶことにもなるはずです。1993年、宇大着任以来の27年間、大学院教育学研究科で修論指導に携わってきました。多くのゼミ生が小中高の国語教員や公務員として活躍しています。2020年度からは、地域創生科学研究科の多文化共生学プログラムで、日本人院生に加え、海外からの留学生とともに、漱石や鏡花や川端などを読んでいます。日本近代文学の日本的特質を、あるいは日本を超えた普遍的魅力を、国際的視野で新たに捉え返すことに繋がっています。
今後の展望
専門的な研究は泉鏡花を基軸に進めますが、日本近代文学の面白さを、一般社会に向けて、特に若い世代にむけて発信したいと願っています。鈴木啓子監修『マンガで楽しむ名作 日本の文学』(ナツメ社 2018)はその試みのひとつです。 また、文学作品の舞台化や朗読劇にも関わっていきたいと考えています。文学作品が優れた俳優によって音声化される時、言葉には命が宿ります。言葉が「意味」だけでなく「身体性」を放つのです。言語文化をいかに豊かに享受するか、享受の様式を次世代に継承するか、これが私のテーマです。
社会貢献等
宇都宮大学教育学部附属幼稚園長(H25-27),全国国公立幼稚園・こども園長会副会長(H27),栃木県子どもの読書活動推進協議会委員(H24-27),栃木県教科用図書選定審議会会長(H31-R5),大学設置審議会文学専門委員会委員(H30-R2),栃木市立美術館・文学館運営協議会委員(R3~),大学入試センター問題作成部会委員(R3-4)