研究概要
元々の専門は繊維工学で,その中でも人間感覚計測という分野で繊維(衣服)と人の関係を明らかにする感性工学的な手法について,快適性をキーワードに研究をしていました。その後,家庭科教育に関わることになり,生活科学に軸足を移しつつ,「ものづくり」という人類普遍の発達を保障する行為を感性教育としてどのように取り入れていくかを探求してきました。そもそも「感性」をどのように捉え,どう科学していくのか?という問いから出発し,感性とは関係性創造能力であり,価値創造に関わる主体性を育む教育が必要と考えています。とくに,「もと」と「自己」の関係性が希薄化する現代社会の課題を「プロセス感覚」という概念で説明し,これを豊かにしていく教育方法を開発するという立場から,豊かな感性を育む衣生活教育について研究しています。
教育・研究活動の紹介
当研究室では「ものづくり」として「伝統染織(伝統的な衣生活)」をターゲットに,様々な教材研究を行っています。とくに,日本の伝統色の一つである「藍」を教育プロセスに組み込むことに注力しています。これまでは,とくに幼児教育と生涯教育において藍を活用した持続可能な発展のための教育(ESD)について,数多くの実践研究を重ねています。また,これら教育の場をフィールドに大学の授業を展開し,卒業研究・修士研究も手がけてきました。今では教員や地域の実践者として活躍してくれています。
今後の展望
和装文化振興に関する教育・研究
栃木県・茨城県両県にまたがる結城地方に栄えた日本最古の紬織物である「結城紬」の研究に長年携わってきています。工学部の感性情報工学を専門とする教員,認知心理学を専門とする教員などと文理融合型の研究チームを結成して,自治体ならびに地場産地と協働で結城紬の振興を行っています。また,これらを全国の紬産地を抱える自治体との連携によって,日本の紬文化発信のプラットフォーム(シルポン;下図参照)づくりを目指しています。多様な立場からの共同研究が可能であると考えています。
伝統染織に関する教育・研究
保育園・こども園と連携して進めている「〇歳からの草木染」プロジェクトを,現場保育士・工芸作家・農業・福祉・教育との連携を模索して,伝統染織がもつ現代的な意義を探求し,地域づくりに発展させていくことを考えています。下図は,連携保育園の乳児組の運動会の様子です。纏っているTシャツは,自分たちで拾ったツルバミとアカネで手間ひまかけて染めあげたTシャツです。〇歳でも安心できる信頼関係と適切な環境を整えれば,深い感性(目に見えにくい深層心理)に訴えかける保育が可能なのです。自立の基礎である土台づくりの幼児期においてこそ,感性の視点からの教育支援が大切です。今後は,幼児期での実践の成果を特別支援教育に適応させ,地域と共に生きていくことが可能な社会の実現に寄与したいと考えています。地域の実践者との連携を進めていきたいと思います。
社会貢献等
宇都宮大学おやまサテライトプラザ市民講座(2016-2018)
結城紬に関する研究成果(SCOPE[総務省戦略的情報通信研究開発推進事業]採択事業「結城紬の感性評価に基づいた質感伝達技術に関する基礎研究」(代表:石川智治[工学部教授])を地域に還元する取り組みとして,小山市総合政策課・工業振興課・産地組合との協働で開催した市民講座。2018年度の講座では,研究開発したシステムで作成した結城紬の披露も兼ねて「結城紬と篠笛の夕べ」を一般公開した。
エコ・ハウスたかねざわ市民講座「里山文化基礎講座・実践講座」
2006年に高根沢町環境学習センター「エコ・ハウスたかねざわ」との連携で結成した市民団体「里山文化の会」は,藍と和綿の栽培から里山文化を見つめ直し,そこで醸成されてきた衣生活文化の再生を目的にして活動してきた。現在は,有志会員で里山文化工房として独立し,生涯学習団体として地域に寄与している。ここでの資産を生かし,現在では里山文化基礎講座として2年間の会員制講座として,年10回のプログラムを開催している。また,講座を修了した有志がメンバーとなって実践講座を運営している。里山文化の会が中心となって,町有林の一部を栃木県元気な森づくり県民税を活用して里山再生に携わり,伝統染織植物を植樹した「伝統染織の森」として現在も管理運営を行なっている。実践講座はここでの環境教育に資する染織教材を開発しようと活動を続けている。