研究概要
附属農場の森林土壌を活用した水稲の有機育苗法に関する研究を、前田忠信教授·高橋行継教授や技術職員とともに継続的に実施し、日本作物学会紀事や農作業研究に報告してきました。その結果、菜種油粕と魚粉を森林表土に混和し、1週間静置することで、草丈、充実度、マット強度の面から機械移植に活用できる有機中苗を育成できることを明らかにしました(平井・朝妻・高橋・田中・星野、農作業研究2019)。現在、この開発された有機育苗技術を、宇都宮大学で前田忠信名誉教授により育成されました“ゆうだい21”に活用しています。また、サケや捕獲イノシシの内臓を活用した、小規模、ホームメード、密閉型の資源化法を新規に開発しました。高圧蒸気滅菌装置によりサケやイノシシの未利用部位を滅菌処理し、スライサーを用いてペースト化したものに水分調整剤として未利用のもみ殻や米ぬかを添加し、密閉可能な容器で培養する方法です。さらに、この培養された資源化物をすでに前述した有機育苗用培土において用いられた菜種油粕·魚粉の代替有機物として応用する方法として開発しました。未利用の資源を循環活用した水稲育苗法の開発から、現在、畑作物へ未利用有機物資源を活用する方法を開発しています。この技術の中心となるのは、森林土壌を活用する点であることから、森林土壌の未利用有機物資源を活用した時に起こる現象を解明しようと早川助教や卒論生とともに研究を行っています。以上の研究成果を、社会に還元するために、附属農場において栃木県立博物館と共同して土壌の観察会を実施しています。これは、児童生徒·学生への土に関するアンケート調査とその解析の結果、土への関心を児童がもつためには土に触れることの重要性を認識したためです。現在、土が生活の場から姿を消しつつある現代社会ではあるものの、持続可能な社会の実現には、土の重要性の認識が不可欠であることから、体験型の土壌教育プログラムパッケージの開発研究を共同教育学部、地域デザイン科学部の教員とともに実施しています。
教育・研究活動の紹介
文部科学省により2009年に「教育関係共同利用拠点」と定められた附属農場では、2011年に農林水産省に品種登録された新水稲品種‘ゆうだい21’が開発され、その種子が一般農家に販売されています。加えて、農場には、雑木林から供給される落ち葉や表土および下層土の資源が潤沢に存在しています。これらの資源やサケやイノシシといった未利用の資源を循環利用し、有機物を土壌に蓄積する視点と有機物を植物の成長のための栄養とする研究が実施できる点が特徴です。このような現場感覚を持ちながら、地域社会の持続可能な発展に貢献する技術を土の視点から開発で切る点も強みです。さらに、土壌教育の側面を含みながらフィールドにおける実感を伴った教育(アクティヴラーニング)を実践できる点も宇都宮大学の資源を活用した社会貢献の特徴と強みです。
今後の展望
附属農場における堆肥連用と化成肥料連年施用水田での研究、水稲の有機育苗に関する研究、未利用資源の循環活用法に関する研究、土壌教育に関する研究等の成果に基いた教育研究法を、多様な研究者や教育者および学生さんとともに実践し、現場感覚を身につけた学生を社会に輩出するとともに社会貢献活動に努めたいと考えています。
社会貢献等
技術移転希望項目:水稲の有機育苗技術
特許出願状況:特記事項なし
市民講座や子ども向けの授業などアウトリーチ活動のとりくみ例
・栃木県立博物館との共同事業による「土とイネとお米の観察会」
・宇都宮市立石井小学校における田植え体験の講師
・吉野林業の持続的な発展のための現地調査研究
企業や自治体、教育機関、報道機関などに向けたメッセージ
・SDGs時代における体験型土壌教育プログラムを開発していますので、ご関心のおありの教育機関、地方自治体、企業の方々からのご連絡をお待ちしています。